「昆虫少年」は「モグラ博士」になり「標本バカ」になった。
  • 動物学者川田 伸一郎さん
1973年、旧瀬戸町(現岡山市)生まれ。弘前大学大学院理学研究科生物学専攻修士課程修了。名古屋大学大学院生命農学研究科入学後、ロシアの科学アカデミーシベリア支部への留学を経て、農学博士号取得。国立科学博物館動物研究部脊椎動物研究グループ研究主幹。2011年、博物館法施行60周年記念奨励賞受賞。著書に『モグラ博士のモグラの話』(岩波書店)、『モグラ-見えないものへの探求心』(東海大学出版会)など。茨城県在住。
 丘陵地が広がり、南北に砂川が流れ、少し歩けば雑木林に入って探検し放題。故郷の自然がはぐくんだ“昆虫少年”は研究者を目指して大学に進学。哺(ほ)乳類の染色体研究に取り組むうち、大学院で「モグラ」という運命的な題材に出合う。「だれでも名前を知っているのに、実態はあまり分かっていない。そこが面白い!」と研究に没頭。日本、アメリカ、台湾、タイ、ベトナムなどモグラを求めて旺盛に調査を進め、「新種」も発見。多くの論文を発表し、「モグラ博士」として知られるようになる。
 その過程で夢中になったのが「標本づくり」だ。ロシアの科学アカデミーに留学中、欧米の博物館が未来の研究のために10万点以上の標本を所蔵している事実を知った。自身もシベリア動物学博物館でモグラの頭骨約1800点を見て研究に役立てた。日本との違いに驚くと同時に研究者魂に火が付いた。2005年に国立科学博物館(科博)に職を得ると、一気に標本づくりが加速。モグラなどの小動物からクマやゾウなどの大型動物まであらゆる哺乳類を扱う。「モグラ博士」は自他ともに認める「標本バカ」となった。
 標本は情報の宝庫。姿かたちを剥製にするだけでなく、皮や骨も標本にして残す。研究のためということもあるが、自分なりの供養でもあるという。「害獣として処分されたもの、自然死したもの、研究のために命を落としたものが研究材料として科博にやってきます。それを捨ててしまうのではなく、姿かたちを残していつか何かの分野で役に立てられるように。そして、標本にしておくことで次にだれかが必要な研究のために新たに殺さなくても済むように。いま僕がやらなきゃいけないなという気持ちです」
 科博の職員に就いた当時3万3000点だった標本は現在7万5000点。目標の10万点に向け、標本中心の日々は続く。
未来の研究のために標本づくり
(写真はすべて国立科学博物館提供)
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