ケース12

皆さんに安心して真備に戻ってもらいたい
その思いで小田川堤防を拡幅

伊東 香織

Kaori Ito
Profile
2008年に倉敷市長に就任し、現在4期目。岡山県市長会長、中核市市長会長、全国市長会副会長などを歴任。2018年西日本豪雨災害で甚大な被害を受けた真備地区の復旧・復興の陣頭指揮を執り、災害からの復興とみらいに向かうまちづくりを進めている。

西日本豪雨発生から5年。倉敷市は、真備地区を中心に甚大な被害を受けた。災害発生から、これまでを振り返ってどうか。

 災害から5年にあたり、あらためて、お亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りしますとともに、ご家族の皆さまに心からお悔やみ申し上げます。また、これまで救援や復旧・復興業務にご尽力いただいた、自衛隊、消防、警察、全国の自治体、ボランティアの方々をはじめ、全ての皆さまに心から感謝を申し上げます。

全国から寄せられた支援物資(真備総合公園体育館)

 災害直後から現在まで、今、何が求められていて、何から行っていくべきなのか、中長期的に皆さんが復興に求めているものは何か、これらを皆で共有しながら、復興への道を進めていくことが私の役割と考えてきました。避難所での生活を余儀なくされている方々、真備町内7地区ごとの住民の皆さんとの復興懇談会、子どもの学校再開を心配する保護者の皆さん、ボランティア団体の方々、治水対策の進み具合を見ながら住まいの再建をどうしようかと悩まれている方々、中長期にわたって支援いただいた全国の自治体の皆さん、真備地区内の各種団体の方々や防災分野の学識経験者などから成る真備地区復興計画策定委員会(現在の復興計画推進委員会)などをはじめとして、復旧や復興の時期ごとに皆さんからお話を伺い、施策を進めてきました。振り返ると、長い期間でしたが、あっという間に5年を迎えたようにも感じています。

2018年11月、二万・岡田・呉妹・薗・箭田・服部・川辺の7地区ごとに復興懇談会を開催

真備地区の復興計画は2023年度が最終年度となる。

 これまで、住民の皆さんが一日も早く安心して真備に戻っていただけるように、治水対策、支所や学校などの公共施設の復旧、住まいの再建、農業や商工業など地元産業の復興をはじめ、さまざまな取り組みを、住民の皆さんの意見を伺いながら進めてきました。例えば、災害後、住民の「まちを守る治水対策を早急に進めてほしい」との声を受けて、国では抜本的な治水対策である小田川合流点付替え事業を当初予定の10年間から、半減させて5年間で完了させるべく検討を行い、現在は、約8割まで工事が進んでいます。また、「目の前の堤防の安全度が高まってくれれば安心して家の再建ができる」との声を受けて、市では国と協力して、小田川両岸の計約11.5キロ区間の堤防道路をこれまでの5メートルから、7メートルへと拡幅する計画を策定し、22年3月には概成しました。

小田川の堤防拡幅工事のイメージ

 住民の皆さんから、「日々、工事で太くなっていく堤防を見ながら、安心感が増していった」とのお話を伺うと、この方針を早く発表して取り組んでよかったと感じています。このように、全ての施策について、どうしたら住民の皆さんが、一日も早く安心して真備に戻ってもらえるだろうかとの思いを持ち、復旧しながら、再生を図り、再生しながらより良い地域を創造していくことを目指して取り組んできました。

拡幅工事が完了した小田川堤防(2022年3月)

21年6月には文化施設「マービーふれあいセンター」が再開、23年度中の完成を目指して「復興防災公園」の整備も進む。

 20年度中には、真備地区内3ヵ所の災害公営住宅も完成し入居が始まり、21年の秋までには、真備地区内の25公共施設も全て再開することができました。特に、真備地区最大の公共施設であるマービーふれあいセンターについては、地域のシンボルでもあるため、時間はかかっても必ず再開させたいと考えていました。
 また、復興防災公園については、復興のシンボルにもなるものとして、平常時は防災教育など会議・研修も行い、また自然とも触れ合える市民交流の場として、そして、災害時には住民の一時避難場所や、救援活動を行うことができる場所としても活用したいと考えています。

21年6月のマービーふれあいセンター開館式典の様子

ソフト面の復興、コミュニティーの再生はどうか。

 皆さんが家を再建して戻ってこられて、さあこれから一緒に町内のことも再開しようかという時に、新型コロナウイルスの流行が発生して、人と人とのつながりの復興ができなくなってしまいました。にぎわいの創出などが最も必要な時期でしたが、交流行事が中止となり、地域コミュニティー活動の再開も滞りました。昨年からは夏祭りなども徐々に再開し、今年は、真備・船穂総おどりも再開を予定しており、以前のにぎわいが戻ってくることを期待しています。

今後の取り組みで力を入れていくのはどこか。

 現在、真備地区では被災経験を踏まえた住民の皆さんによる防災の備えの取り組みも活発に行われており、この動きを市全体の防災力の向上につなげていくことが大切と考えています。また、大雨による浸水被害に見舞われた他市町村に職員を派遣する支援活動についても、私たちの経験が少しでもお役に立てばとの思いで取り組んでいます。災害でご支援いただいたことへの感謝の気持ちを持って活動してまいります。
 今後は、被災経験を踏まえた災害への備え、防災教育などを通じた地域の取り組みを進めるとともに、「真備は復興して、力強く歩みを進めている」ということも、住民の皆さんと一緒になって全国に発信していきたいと考えています。

今後の取り組みについて話す伊東市長

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