ケース6

「一緒にやっていきましょうね」を
合言葉に応援し続ける

松岡 武司

Takeshi Matsuoka
Profile
1979年、大分県生まれ。高校生のとき、看護師の母親が病院勤めを辞め、地域の関係者と協力して在宅医療に取り組む姿に影響を受ける。「人に寄り添う視点を持って地域を良くする仕事」を志し、社会福祉の道へ。倉敷市社協職員として、地域の人たちと連携しながら、高齢者の居場所や生きがいづくり、支える仕組みづくりを進める。

 「地域を訪ねると宝物のような人に出会える。その人たちに教えてもらいながら、文化やきずな、取り組みを大事に磨き、地域の可能性を広げるのが自分たちの仕事です。すごくやりがいがあります」。
 西日本豪雨の発災直後、倉敷市社会福祉協議会(倉敷市社協)が設置した倉敷市災害ボランティアセンターで、ニーズ班を担当。情報が錯綜する中、駆け付けられないもどかしさを抱えつつ、被災者のSOSや感情を受け止め、「一緒にやっていきましょうね」と繰り返した。
 2週間後、被災地域を支援するため、倉敷市真備町地区の各地を回った。復興には被災者や地区社協の「やりたいこと」の実現が重要だと痛感した。「思い」を核に人と人を結び、希望につなげよう。地域の自立的再建を支えた。

集まってしゃべる場を

 自身をはじめ、倉敷市社協チームは、豪雨の爪跡が生々しい真備町地区に入り、じっくりと話を聞いて回った。「あの人に会いたい」「これからのことをみんなで話し合う場所が欲しい」。住宅や道路の復旧に加え、地域コミュニティーの復活が切望されていた。
 倉敷市社協が身近な地域活動の中心として支援してきた「サロン活動」をやろう。公民館や集会所は使えない。車に折り畳みベンチや長机を積み、方々で“簡易サロン”を開いた。
 片付けの手を止めて人が集まってくる。おしゃべりの場ができる。お茶やコーヒーを飲み、甘いものを食べて、表情が和らぎ、笑顔が生まれる。心情を分かち合い、励まし合って前に向かう気持ちが芽生える。「やりたいこと」が口をついて出る。
 場づくりを応援するほどに、人が、地域が、元気を取り戻していく。自分自身が力づけられた。

真備の人たちに松岡さん自身が力づけられた

真備の人たちに勇気づけられ

 発災直後の混乱期、被災者ニーズをすぐに支援に結びつけることができない経験をした。「もういいです」。電話の声に無力感をのみ込んだ。夜、眠れない。休日も頭から離れない。自分の気持ちを立て直すことができなかった。
 被災地に入り、真備の人たちの立ち向かう姿、人と地域を思う気持ちに勇気づけられた。被災者なのに、ボランティアの道案内を買って出る。被災者やボランティアに声をかけてお疲れさまのお茶会を始める。町外で避難生活を送る人が安心して帰ってこられるように地区でイベントを開く…。
 真備の人たちの「やりたいこと」を全力で支援した。その軌跡を事例集「豪雨ニモマケズ」として発行。地域づくりのヒントとして岡山県内外から注目を集める。

宝物のような真備の地域づくりを集めた「雨ニモマケズ」

コミュニティーを再起動

 真備の小さな地域サロンは、被災前より倍近い数に増えた。「被災地でどうしてそんな前向きな取り組みができたのか」と聞かれるたび、「真備には被災前から見守りの文化がある。愛情を持って人とかかわるコミュニティーがあるから」と答える。
 だが、コロナ禍がコミュニティーを分断した。集まる場所を奪った。高齢者の生活習慣と心境は変化し、サロン活動は停滞した。
 再起動させるには「元気」と「機運」が必須。地域をもう一度活気づかせたいと取り組む人たちに伴走し、幸せな地域づくりの応援を続ける。

住民の「やりたい」を全力で支えるのが仕事

災害ボランティアセンターのサテライトがあった下有井公民館はその後、地域住民の交流の拠点となった。復興が進むまちの風景を眺めると、「これからも一緒に」という思いを強くする

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