つながってさえいれば
いざという時に助け合える
枝廣 真祐子
住宅と田んぼが混在するエリアに白い大きな“帽子”が現れた。岡山市東区瀬戸町江尻の運動施設・江尻レストパークにある屋根付き広場だ。直径約45メートルの帽子は照り付ける日差しを遮り、夏の暑さを和らげてくれる。
5年前のあの日、旭川水系・砂川が決壊し、瀬戸町地区と隣接する平島地区が広範囲に浸水。平島小学校も被害を受け、そのまま休校し、夏休みに突入した。「自宅の片付けをしようにも子どもがいるとままならない」「公園は災害ごみ置き場となり、外は砂ぼこりが舞い、遊ばせられない」―。そんな声を受け、立ち上がったのが、被害が少なかった瀬戸町地区のお母さんたちだ。
子どもを預かることで、親の負担を減らそう。子どもが元気いっぱい遊べる場所を提供しよう。地域を巻き込んだ支援活動の拠点となったのが、レストパークだった。
ひとりじゃ何もできない
なんて無力なんだろう。水害で当たり前の日常が奪われてしまった友人にかける言葉もない。ひとりじゃ何もできない。みんなに助けてもらおう。幼稚園に通っていた子どもがいる縁でつながっていた瀬戸町地区のママ友のグループLINEで呼びかけた。投稿直後から、子ども服やおもちゃなど支援物資が続々と届いた。
「片付けしたいから子どもを預かってほしい」と頼まれ、瀬戸町の自宅で託児をスタートさせた。子どもは当初、5人程度だったが、1人、2人と増え、気づけばすし詰め状態に。もっと広い場所はないかと模索する中、レストパークが頭に浮かんだ。屋内施設や屋根付き広場があり、平島地区からも近い。施設を管理する市も理解を示し、無料で借りることができた。
自家用車が浸水して使えない家庭が多く、送迎ができない。地元のタクシー事業者に話をすると、バスを運行してくれることになり、スーパーや公園などに停留所を決め、運行表を作成した。平島小学校が1学期の途中で休校になり、学習の遅れを心配する保護者や子どもの不安を解消するため、市内の通信教育大手企業にかけ合い、講師を派遣してもらった。
地域の力を引き出す
子どもの一時預かり、送迎手段の確保、学習サポート…。日を追うごとに変化する被災者の悩み事にスピーディーに向き合う。言葉にするのは簡単だけど、解決への道のりは平たんではなかった。手を差し伸べてくれたのは、地域の人たちだ。
多い時で子どもは100人を超えた。屋根付き広場周辺でサッカーやプール遊び、木工などを楽しんだり、屋内でブロック遊びやフラフープをしたり…。暑い日が続き、熱中症の心配もある中、ボランティア約60人が交代で見守った。赤ちゃんや幼児は愛育委員が相手をしてくれた。その一人、江西学区愛育委員会の藤原惠子会長は「一生懸命なお母さんたちの手助けをしたかった」。
市社会福祉協議会瀬戸支部は、活動資金を得るため、募金活動を展開。さらにバスの運行を依頼する際も同行し、一緒に頼んでくれた。持ち帰り用に野菜を差し入れたり、見守り役を買ってでたりする地域住民もいた。当時、レストパークがある出屋敷町内会の会長だった中家茂博さんは「困っている人を助けたい気持ちはみんな同じ。枝廣さんらお母さんたちがみんなの力を引き出してくれた」と話す。
顔が見えるゆるやかなつながり
「大雨にならないうちに早く帰ろう」―。西大寺地区更生保護女性会のメンバーによるオリジナルのペープサート(紙人形劇)。雨が降ってもまだ遊ぶとごねるイノシシの「いの君」がアニメの人気キャラクターらに説得され、帰宅するというストーリー。会場の子どもたちが食い入るように見ていた。
6月10日、レストパークで開かれた恒例の防災イベント「今年もレスパにあつまろう!」。ペープサートのほか、岡山市子どもセンターが防災に関する〇×クイズ、市消防音楽隊による演奏もあり、約400人の親子連れらが参加した。
「みんなでなかよくつながって すてきな地域にしていこう」。案内のちらしに記されたサブタイトルは、会の活動目標でもある。催しは、防災を考えるきっかけになるし、あらゆる世代の地域住民が顔を合わせ、話をする場にもなる。「顔が見えるゆるやかなつながりが何より大切。つながってさえいれば、いざという時に助け合える」。心からそう思う。