備えるだけでなく、立ち向かう。
その後ろ姿を子どもたちに見せたい
守屋 美雪
「レバーを引いて。もう少し右」―。指示の声が掛かるとショベルカーのアームが地面を掘り下げ、巧みに土をすくい上げる。操縦席でレバーを握っているのは箭田地区まちづくり推進協議会事務局長の守屋美雪さん(74)。守屋さんら倉敷市真備町箭田地区の住民有志は、月に数回小田川河川敷に集まり、小型重機の操作練習に取り組んでいる。豪雨時に自宅2階まで浸水し、泥水を含んだ家財などの片付けに苦労した守屋さんは「人力では限界がある。ショベルカーがあれば」と重機の必要性を実感。コロナ禍になり、ボランティアが入れない全国の被災地で重機が活躍していることを知り、その思いは一層強まっていった。豪雨災害時に知り合った一般社団法人ピースボート災害支援センターの協力を得て、2022年夏に住民向け重機講習がスタート。「災害に備えるだけでなく、立ち向かう姿勢を子どもたちに見せたい。いつか私たち“まびタケノコ重機隊”で全国の被災地への支援ができれば」と練習に励んでいる。
世代間つなぐ「まちづくり」
真備町の中心部に位置する箭田地区の「まちづくり」に30年以上取り組んできた守屋さん。5人の子どもを育てながらまちづくり推進協議会の事務方として青少年の健全育成、防犯、防災など幅広く活動してきた。「まちづくりは子どもも大人も一緒に」が会のモットー。明るく社交的な人柄で地区内の幼稚園、小学校、中学校、高校、支援学校の各団体の橋渡し役を担い、祭りやイベントなどさまざまな活動を企画・運営してきた。そんな中、真備町を襲った豪雨災害。守屋さんは率先して要配慮者への避難の声かけや安否確認を行い、長年築いてきた人脈を生かし、ボランティアと住民のマッチングの担い手として活躍した。災害半年後には、地域を元に戻したい、コミュニティーを復活させたい一心で、みなし仮設住宅から自宅に戻れない住民のために、箭田地区の公民館でイベント「まちコン」を開催。住民は泣きながら再会を喜び合い、箭田地区への住民回帰の流れを後押しした。
自主防災に尽力「箭田家のヘルプカード」作る
その後も守屋さんは地域の自主防災に力を注ぎ、21年には幼・小・中・高・支援学校のほか、障害者・高齢者施設、保育・子育て施設の専門職と共に避難計画などを記したまち独自のヘルプカードを作成。各方面の意見を反映しながら作り上げたカードは「箭田地区は一つの家族、みんなで支え合う」という願いを込め「箭田家のヘルプカード」と名付けた。さらに国土交通省と連携し、小田川河川敷の整備にも着手。増水時に流れを妨げていた草木の繁茂を食い止めようと、河川敷を歩いて踏みしめる住民参加イベント「踏みつけウオーク」を実施し、マレットゴルフ場の整備も行った。
“元気老人”の姿見せ、新たな担い手づくりを
「今まで復興、復興と頑張ってきたけれどそろそろ新しい箭田として出発したい。それに私たちは全国の方々から温かい支援を受けてきたので、今度はその恩返しをさせていただく番」。現在、守屋さんらが注力する小型重機の講習会・練習会は、自力復旧のためはもちろん、「全国の被災地に支援に行く」のが最終目標だ。これまで講習会で重機の資格を取得したのは市内外の住民50人。今年度中に3台の重機を導入し、グループの法人化を目指して今後ますます講習会や練習会を行い、災害支援の担い手づくりに力を入れていくという。「重機を動かすのは爽快。“元気老人”の姿を見て、ぜひ多くの方に重機ボランティアに参加してほしい」と呼びかけている。