ケース8

一人一人の心に寄り添う
民間ボランティアセンターを設立

災害支援・アット笠岡副代表

小林 好恵

Yoshie Kobayashi
Profile
1973年、井原市生まれ。大手写真館チェーン会社勤務後、浅口市で野菜の直売所やヘルパー派遣会社を運営。現在はのり加工会社社長を務めながら、災害支援・アット笠岡で副代表を務めている。

 「わしはええから真備の方へ行ってくれ」―。小田川支流の尾坂川の堤防が決壊し、約200棟が床上・床下浸水した笠岡市北川地区。住民の多くは、甚大な被害を受けながらも自らで復旧する意を示し、ボランティアの申し出を断っていた。そのため被災から10日足らずの7月16日に笠岡市社会福祉協議会(笠岡市社協)のボランティア募集は終了する。「本当はまだまだ困っている人がいる」と声を上げたのが、個人で被災者の支援をしていた小林好恵さん。有志と「ぞうきんプロジェクト@笠岡(現・災害支援・アット笠岡)」を結成し、同18日、北川公民館(同市走出)に民間の災害ボランティアセンターを立ち上げた。毎日一軒一軒、被災者宅を訪問し、根気強く話に耳を傾ける。住民は次第に心を開いてくれ、支援を行うと涙を流して喜んだという。

災害ボランティアセンター未経験で立ち上げ

 「やり方を知らずに行って大丈夫か。けが人や死人が出たらどうするんだ」。民間の災害ボランティアセンターの設立を決めた日から北川公民館では毎夜話し合いが行われていた。「メンバー全員が災害ボランティアセンターの立ち上げ未経験。どうしていいかわからず毎日泣いていた」と小林さんは当時を振り返る。それでもあきらめず取り組む姿を見て、公的機関や岡山県内外のボランティアなど徐々に協力者が増加。笠岡市や市社協は、支援物資や道具、送迎用車両などを提供、岡山市を拠点に活動する「ぞうきんプロジェクト」や愛知、兵庫県のボランティア団体はボランティアセンター運営のノウハウを指南してくれた。

北川公民館前にテントを立て、手づくりで立ち上げた「災害ボランティアセンター」

信頼関係築きニーズ聞き取る

 周囲の支えを得て、民間ボランティアセンターが誕生すると、小林さんは災害直後から個人的に行っていた被災者宅への訪問調査に一層力を注いだ。「ボランティアは必要ないですか」と聞くだけでは遠慮されてしまうため、毎日被災者宅を訪問し、人間関係を築いた上で「ご飯は食べているの」「部屋の奥はどうなっているの」などと一歩踏み込んだ問いかけをした。やっとのことで家に入れてもらった老夫婦宅では、泥水をすった畳の上に布団が敷かれており、あわてて畳を入れ替えたこともあった。

畳を撤去した被災者宅

 県内外から訪れたボランティアは1カ月で約1200人。被災者の事情を把握していた小林さんがマッチングを行い、ボランティアには「被災者の方とたくさん話をしてください」と送り出した。作業を終えたボランティアを毎日手作りのカレーでねぎらうのもアット笠岡流。支援する側、される側共に温かい雰囲気の中で順調に作業が進み、8月25日にはボランティア募集を終了。手づくりで立ちあげた民間ボランティアセンターは、一人のけが人や病人も出さず、無事に支援を終えた。

被災者に「一息ついてもらおう」と2018年8月25日に開催した「ひといきまつり」では、多くの笑顔が見られた

全国の被災地にぞうきん送付

 現在のアット笠岡は復旧作業に役立つ「ぞうきん」を常時2000枚ストックし、全国の被災地に送る活動をしている。また今後の災害時には、市社協の災害ボランティアセンターのサテライトを市内各地で担っていくという。「一人一人の話をしっかりと聞き、心に寄り添うことで本当の支援ができる」という小林さん。民間ならではのきめ細かい手法で今後も笠岡の防災に取り組む決意だ。

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